12章 エレクトーンへの想い(最終章)

1.私とピアノの歴史

私自身のことを少しお話しますと、私はアコースティックピアノに関しては良い先生に出会えなかったと思っています。

音楽に関する知識を学んだのは音楽大学に進んでからで、幼少期に習った先生は、ピアノという楽器を楽しく学ばせてもらえるような感じではなく、ただピアノの技術を習得するための王道の指導で、それを練習する意味など教えてももらえませんでした。

今では自宅でピアノ2台も抱えて音楽教室をやっている私でさえ、子ども時代は何度もやめたいという気持ちにされました。

それなのに音楽の道に進んで、よく辞めずに続けたなあと思います。やはり音楽が好きだったのだと思います。

昔ピアノを習っていたという方からよく聞く話ですが、「ピアノを習ったが楽しくなくて辞めた」「先生が怖かった」「上手に弾けないと先生に手を叩かれたり、つねられた」「やりたい曲をやらせてもらえない」「練習曲ばかりさせられた」「手の形や音色の出し方のことばかり注意される」などなど、せっかく習ったのにピアノが嫌いになって辞めた方はたくさんいるかと思います。

それはピアノ教育・指導のやり方に問題があったように思います。
現在でも昔ながらの指導をされる先生は存在しています。自分が指導されたことを反面教師にせず同じことを繰り返している、もしくはそれが真の正しいピアノ指導の姿だと思っているのかもしれません。

これを100否定するつもりもありませんが、音楽教室にピアノを趣味レベルで習いに来る生徒さんたちにそのような指導をする意味というのが私には理解できません。

私は過去に習った先生を反面教師として指導をしていこうと決心して、自分が習ったときにされた嫌なことはしていません。

楽器を習得するには、長い時間がかかります。その長い時間をのり越えていくためには、弾くことが楽しいと思えないと継続することは不可能です。

基礎はどんな楽器にでも必要なことかと思いますが、音楽を楽しみ、楽しく楽器を演奏することをなくしてその先はないように思います。

昔のピアノ指導は、指の形、タッチ、音の出し方、どれも大切ですが、どうして必要なのかの説明もなく基礎技術の習得のみに力を注がれていたように思います。10代までに習った先生は、音楽を楽しむこと、楽しく楽器を演奏することを指導するという意味では指導力のない先生だったとつくづく思います。

2.私とエレクトーンの歴史

今回の長編記事では、ずっとピアノのことについて話ししてきましたが、私は両親がピアノとエレクトーンを同時に習わせてくれたので、ピアノと同じペースでエレクトーンも幼少期から学んできました。

エレクトーンは今年で生誕60年のようですが、わたしが出会ったころはまだまだエレクトーンが珍しい頃でした。
母が探してきてくれた音楽教室のレッスン室に、ピアノの横に並んでエレクトーンが置いてあったのがエレクトーンとの初めての出会いで、足を動かしドレミを弾くことが面白くて楽しかったことを覚えています。

昔は今のように音源もよくなくてオルガンのような音で、それにペダル鍵盤がついている、そんなエレクトーンだったように記憶しています。
その出会いが自分の人生を大きく変えていくことになるのですから、人生は不思議だし出会いなんだなあと思います。

私は自宅で音楽教室をされている先生に習うことになりました。ピアノは個人レッスン、エレクトーンは小学生の間はグループレッスンでした。

そのグループレッスンの生徒仲間がみんな優秀だったお陰で、みんなについていきたい、自分もうまくなりたいと思って練習を頑張っていたように思います。
早い時期からグレードも受験させてもらい、とんとん拍子でグレードを取得し中学生の時にエレクトーン演奏グレード5級を取得できました。

将来のことを真剣に考えたのは高校生になってからで、音楽教室の先生の「将来ピアノ・エレクトーンの先生になりたいなら音大へ進学したらどう?」というアドバイスがキッカケです。

当時は、今のように色々選択できるほど将来の道が充実していませんでしたが、私はピアノを続けさせてもらっていたお陰でピアノの専門の道に進むことを選択することができました。
今ではこうして独立して講師もしているのですから、どんなにピアノが嫌でも母がピアノを辞めさせてくれなかったお陰で今の私があります。

10代の頃はあまり楽器の特性も理解せず、毎年エレクトーンコンクールにも出ていましたが、同世代のコンクールに出てくるメンバーは本当に上手で圧倒されるばかりでした。

コンクールの度にまだまだ未熟な自分に凹むこともありましたが、ピアノと並行してエレクトーン 続け、大学ではピアノを専攻しながらヤマハ音楽教室に通ってエレクトーンを学びました。

大きなチャンスは、大学時代にエレクトーンデモンストレーターの募集に応募し、ラッキーなことに合格したことから私の人生も大きく変わっていくことになりました。
その当時から今まで途絶えることなく、エレクトーンに携わり、今となればエレクトーンの生き字引かと思うほど多くの学びと体験、専門の知識を得て今に至っています。

これからは私が学んだことを、後輩たちもしくは生徒さんたちに引き継いでもらいたいと思っています。

3.エレクトーンの選び方と私のポリシー

エレクトーンという楽器については、思うことが沢山あります。
エレクトーンという呼び名は、ヤマハの商標登録の名前でその名前が一般的なので皆さんはエレクトーンと言いますが、楽器としては電子オルガンが正式な楽器カテゴリー名です。

今、エレクトーンという楽器は衰退の一途を辿っています。このような事態になっているのは エレクトーンという楽器を開発して進化させていったヤマハという楽器メーカーの成功と驕りと、販売の仕方の誤算(失敗)にあるかと思います。

私が物心ついたあたりからエレクトーンは認知度もあがり、エレクトーンブームの時代がありました。その頃は、女の子の習い事のTOPくらいの勢いがあったかと思います。

ただ、問題はエレクトーンという楽器は中古のピアノよりも高額な楽器であった事と、進化して新機種が出るたびに楽器を買い替えなければならないという動きがあったことです。
それでもヤマハは全盛時代だったので、楽器はバンバン売れ、企業は潤ったことかと思います。
しかし、そのような全盛期は長く続きません。
時代も流れ、エレクトーンという楽器自体が、「高額」「楽器を買い替えなければならない」など悪いイメージが広がり、エレクトーン離れが起き、エレクトーンを習いたいと思う人が減っていきました そして、習い事の王道はピアノに軍配が上がってしまいました。

エレクトーンという楽器はとても素晴らしい電子楽器だと思います。
ただ、楽器の価格帯が普通ではありません。
電子楽器の王道、シンセサイザー(音源は同じ)なら20~30万も出せばとてもいい音源の楽器が購入できます。
エレクトーンはその昔から価格帯が100万円で、子供の習い事として手を出すにはあまりにも高額なうえに、買い替えを勧められる…興味はあっても簡単に手を出せません。
なので、楽器購入については生徒さんたちにだけでも、本音でアドバイスをしたいと思います。

今のエレクトーンの最新機種は ELS-02C 新品で107万8000円(税込み)です。
もちろん価格帯の安価なラインナップもありますが、普通に価格だけ見ると新品ピアノも十分購入できる価格帯です。そしてピアノと違うのは、電子楽器なので次の新機種が出れば価格は暴落し二束三文となることです。

一番問題だと思うのは、ヤマハ音楽教室(楽器店)で習っていると、最新のエレクトーンがないとエレクトーンを学べないように仕向けられるのです。まるで追い込み漁のように、レッスンが進むと新しいテキストを買うことになり、そのテキストに沿った最新のレジストデーターを購入すると、以前の機種ではデータが適応しておらず、音が出ない、演奏ができないと言われるのです。

教室には最新機種しかなく、講師や他の生徒さんたちも最新機種を購入したと聞くと、自分だけが古い機種を持っていることにコンプレックスさえ感じ、購入するようにと仕向けられます。
要は、楽器店さんは所詮楽器屋さんなんです。
楽器を売ることが一番の目的で、生徒さんの個人個人の需要のことまで考えてられないというのが本音ではないでしょうか?

「電子オルガンの専門の道に進む」「エレクトーンコンクールに出場することが目標」など、最新機種がどうしても必要な状況であれば購入も検討しなくてはいけませんが、自分の今グレードとか技術レベルとか経済的なこととか、エレクトーンという楽器をどのように学びたいかによっては、最新機種でなくても十分なのです。

エレクトーンは一台でいろんなジャンルの音楽を勉強できる奥の深い楽器です。
楽器・音色の研究、自分で音色を作る技術、電子オルガンのアレンジ勉強をするなど、最新の機種でなくても学べることは沢山あります。自分の目標、環境に合ったエレクトーンを選び、楽器を使いこなしてレベルを上げたくなったら、次の機種に上がっていけばいいと思います。
また楽器メーカーが古い機種を切り捨てること自体、楽器に対して愛着がないのですか?と問いたいです 。

私は、今もレッスンでELS-01Cを使用しています。
生徒さんがELS-02Cを持っていて、なんで先生なのに最新機種でないのかと思う方もいるかもしれませんが、それこそ置き場所にも限りがあり、私の考え方ポリシーの中に今のELS-01Cを売ってそのあいた場所に最新機種をという考え方ではありません。

音楽教室には EL900mも置いてありますが、まだまだどちらも現役で良い音がします。それを排除するというのは私のポリシーに反します。どちらも私にとって必要な楽器です。

今のエレクトーンはとてもいい音がします。私が幼少期に初めて出会ったエレクトーンから比べると雲泥の差です。古い機種でも楽しめることはたくさんありますし、エレクトーン初心者の皆さんにとってはとても楽しい楽器だと思います。最新機種だけがエレクトーンではありません。

ホントのエレクトーンの良さ、演奏の楽しさを今後も伝えていきたいのです。
最新機種でなくても十分エレクトーンは楽しめます。

ということを声を大にして伝えたいです。

最後に

私の人生はずっと音楽と一緒でした。組織の中で仕事をしているときは、理不尽なことや思い通りにできないこと等に悩んできました。
独立し音楽教室を立ち上げ、そして演奏者派遣業の代表として仕事をするようになり、違う意味では大変なことも多いですが、ようやく自分のポリシーに沿って前に進めて行けているように思います。

自分で何もかも運営する個人事業主はとても大変で、指導だけに集中できないことにジレンマやストレスを感じるともありますが、自分のやりたいことで生きていけている自分はとても幸せだと感じています。

人生100年時代といわれるようになっていますが、人生があとどれだけなのかは誰にも分かりません。健康な身体で頭もボケないで生きている時間 残された時間 はそんなに長くないように思います。
まして、五体満足な自分でないとピアノやエレクトーンを演奏し続けていくこともできません。
そう思うと今がいかに大事な時間であるかと思わずにいられません。

セレモニーの仕事をするようになってから いろんな方の最期・旅立ちを見てきていますので、いつか自分にも人生の終わりが来るということを他の方より実感する機会も多いのです。

まだまだやりたいことはあるのでこれからも頑張っていくつもりですが、「明日もしこの人生を終えることがあっても後悔しない、自分の人生幸せだった」と思えるようなそんな自分でいたいといつも思っています。

まだまだ続く音楽人生
継続は力なり 

12章に渡る長編となりましたが、ご拝読ありがとうございました。

豊田 佳代子

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